後悔するなら

授業をさぼった。特に理由はなかった。ただ、行きたくなかった。それだけ。
「休む」ことはあっても「さぼった」のは人生で初めてだった。そう、初めてだった。

わたしが授業をさぼっても、何にも変わらないし、時間は流れる。
誰も困らないし、迷惑もかからない。哀しみもしないし、喜びもしない。

そう思っていた。そのときまでは。

でもやっぱり仕事はさぼれないから、仕事には行った。

でも…でも今日は身が入らなかった。何を言っても説得力をもたないのだ。数学の解説をして、「なるほど」って生徒が言っても、嬉しくなかったのだ。ぜんぶ手の中からすり抜けていく感じがした。

帰りにコンビニに行くと、松本さんがいっぱい本棚に並んでいた。あまりにも松本さんと目が合ったので、一冊買うことにした。

何かを通り抜けていく感じが押し寄せて、バス停でわんわんと泣いた。気が済むまで泣いて、冷静に周りを見たら真っ暗だった。寒かった。自分のばかさに笑えた。

バスが来て、乗ってみたら、すごくゆるやかな運転だった。ブレーキがどすんとなることもない。こんな運転手さんはめずらしい。
「ありがとう」と言ってバスを降りると、「ありがとうございました」とそれはそれは穏やかな声で返事をされた。
その後、やっぱりまた泣いた。

家に帰って、松本さんを開いた。

>何か新しく始めたことは?

「仕事が忙しくて…気の利いたことが言えなくて、申し訳ないです。」

さらに松本さんはわたしの目を見て言うのだ。

>本誌およびテレビ雑誌に望むことは?

「むしろ俺らは何を望まれているのか、知りたい」

打ちのめされた。完全に打ちのめされた。ずーん・ずーん・ずーん。
頭を金づちで叩かれた気分。

よく考えてみろ、ぼちよ。
その授業料誰が払ってくれてんのよ?あんたの両親が汗水流して働いた金でだろ?
甘ったれんな!

将来あんた何になろうとしてんの?人の命預かる仕事だろーが。ふざけてるんじゃないよ。




…最初から、最初から授業行かないこと後悔するってどこかで分かってたのに。

後悔するなら、最初からやればいいんだ。
どうせ、やるなら、ちゃんとしようよ。中途半端からは中途半端しか生まれないなんてもっと前から知ってるやん。



松本さんは、かっこいい。本当にかっこいい。
さらっと話しただけで、インタビュー越しに目が合うのだ。

さぼった日を意味ある日にしてくれたのも松本さんだ。


ラッキーセブンは、今日から明日、納得できる過ごし方ができたと思ったら見ることにする。